ザ・ノンフィクション 生きて

昨夜、久しぶりに
天野貴元さんの著書「オール・イン」を手に取りました。

私は買った本は基本的に一気に読んで
気に入ったものは何度も何度も、しかも何年にも渡って
読み続けるタイプですが、天野さんの本を手にするのは
購入以来、2度目。

一気には読んだものの
繰り返し読むことはありませんでした。

天野さん。
奨励会の「スター三段」。年齢制限による退会後の波乱万丈。
「舌がん」の宣告、舌の全摘出手術、転移、余命宣告、そして
昨年の10月に30歳の若さで惜しまれつつ逝去。

三段リーグの末期、退会後のLPSA入社と退社
麻雀プロへの挑戦の辺りまでは、天野さんのブログで
「舌がん」以降はfacebookを通して、ずっとリアルタイムで
天野さんの生き様をみてきました。

そして、最後も。

天野さんの本は、どこか上の空だった。
「将棋の天才」と周りが認めていたのか、自負していたのか。

まだ何も成しえていない、自意識過剰な若者にありがちな
中学2年生での「飲酒・喫煙」デビューに始まりギャンブルに溺れた
怠惰で破滅的は日々の羅列は、本の発売が「舌がん」の宣告をされた後
ということもあり、よくあるヤンチャな青春の一ページでは収まらない
読んでいて空しさとやるせなさが募ったのを思い出します。

実は、facebookもどこか上の空でした。

明るく屈託のない天野さんには多くの将棋仲間、友人がいて
闘病後の日野社長をはじめとする皆様の、心の底からの支援と応援は
本当に胸が打たれ、また畏敬の念を抱きました。

ただ、個人的にいつも思っていたのは、天野さんのご両親のことでした。
会社員のお父様と高校教師のお母様。天野さんは一人っ子でした。

葬儀の最後、喪主であるお父様からの挨拶には涙が止まりませんでした。
(広瀬章人八段のブログ記事「葬儀」より引用)

昨夜、はじめて
「ザ・ノンフィクション 生きて~天野貴元30歳」という番組をみました。

映像でみる天野さんは
facebookや本から想像していたイメージなどはるかに凌ぐ、想像を絶する
壮絶な姿でした。末期癌とはこうも過酷な修羅場なのかと息を飲みました。

すでに舌を失い、骨と皮だけにやせ細った天野さんは
「プロとの対戦」を目指し、アマチュアの将棋大会に出場し続けます。

自力での歩行もままならず、杖をつき、お母様の肩を借り
将棋を指し続ける天野さんの姿を、カメラは淡々ととらえ続けます。

ナレーションもなく、ただ淡々と。

「将棋って、負けて得るものってあるのですか?」

戦いに敗れ、ホテルのベットに倒れこむ天野さんに
同行者は問いかけます。

この日、最後に負けた相手―県代表クラスーに対して
「絶対、将棋は僕の方が強いんですよ。と、僕は思ってるんですよ」

という言葉の後に

「でも、体力がないですよ。。最善手は指せないですね」
と天野さんは続けます。

言葉選びながら、問いかけは続きます。

「天野さん、今体調悪いから、負ける時の方が多いじゃないですか」

この時の同行者の言葉の意図は
番組をみていれば十分に理解できました。できましたが
天野さんはガバっとベットから起き上がり、号泣します。

「いや、そうでもないですよ」

天野さんの号泣にかぶせるように、お母様が言います。
怒っているか、かばっているのか、それは他人にはわからない。

「最後まで残らないだけで」

お母様の言葉に
天野さんの嗚咽と真実の叫び声が重なります。

「悔しい、悔しい」と。

この番組は壮絶で、辛いのもでしたが、それでも
目をそむけることなく、また耳を塞ぐことなく最後まで見たのは
天野さんの生への執念と、ご両親の深い愛情を余すところなく
痛烈に感じたからです。

凡人の私に「天才」の定義、意味するところは分りませんが
天野さんは自分が「将棋の天才」であると信じきっていたこと
ご両親もまた、息子さんを信じ、支え続けていたこと。

天野さんは好きなことを納得するまでできたわけではないけど
天野さんは好きなことを好きなようにやることはできたのだと。

それはご両親の愛情と理解があったからこそなのだと。

立派なご両親に育ててもらった天野さん。
全てが腑に落ち、全てが終わったことを自覚しました。

お父様の最後の挨拶
横で肩を震わせ、涙を流すお母様の姿だけは
本当に見るに忍びなく、心が痛みました。

番組を見終えた深夜、久しぶりに
天野貴元さんの著書「オール・イン」を手に取りました。

しかし、読む気持ちにはなれませんでした。
今はただ、天野さんのご冥福と、ご両親の安らか日々を
心より、お祈り申し上げます。

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